crocus
「……ごめんな?」
優しく胸を締め付けるような声が聞こえ、パッと隣を見れば、恭平さんが運転席の方へ体を戻していた。
恭平さんはひどく怯えるように体を震わせ、哀しさや自責の念を含んだ瞳をしていた。
「違うんです!ホントにっ……!恭平さんは何も悪くないんです!だからっ!……だから、そんな顔……しないで、ください……」
恭平さんは若葉の言葉を振り落とすように力無く、ふるふると頭を振った。
「……あとで治療させてな?」
「そんなっ!全然大したことないんですよ?」
へにゃっと眉を下げて、ふわっと困った表情を見せた恭平さん。
ゆらりと伸びてきた腕を見て、若葉は「あ、くしゃくしゃだ」と身構えれば、恭平さんの手のひらが、花のようにしゅんと萎んだ。
「って……俺じゃ恐いよな」
口角だけを緩やかに上げただけの表情は笑顔ではなく、この上ないもの悲しさを表していた。
「恭平さん……わ、たし……っ」
恭平さんの心が悲痛の声を上げているのかもしれないと思うと、伝染するように若葉も沈痛な面持ちになった。
肩に触れられても、声なんてあげちゃいけなかった。
あのとき……もっと上手にキャニスターを受け止めていればよかった。
そもそも……クーラーボックスを扉に当てなければ……すぐに扉を開けていれば……。
優しい恭平さんにこんな白く霞んだ笑顔をさせることはなかったのに……。
とめどなく溢れてくる場面を悔いたって、遅い。
何より今の今だって、恭平さんの心を軽くするためのピッタリな言葉が1つも見つからないことが、すごく悔しい……。
いざって時に限って言葉はただの音だ。
戸惑う若葉の視界がゆらりと1トーン暗くなる。その正体は影だ。
後ろを振り向けば、大型トラックが間近に迫っていた。ほの暗い灰色のバンパーが、後ろの窓いっぱいに染まっている。
クラクション1つに背中を押され、しばらく停車していたワゴンがとぼとぼと走り出した。