crocus
和やかに雰囲気に癒され、改めて頑張ろうと気合を注入していた矢先。
カウンターの方から何かが割れる音が店内を駆け抜け、一同の目は一斉にそちらに集まる。
「あー……わりぃわりぃ!またやちゃったよー。あははは……」
恭平さんが頭を掻きながら、声高らかに笑いながら言った。
おどけて見せてはいるけれど、破片を拾うためにしゃがみ込む瞬間、乾いた笑みに変わっていた。
急いで掃除棚からホウキとチリトリを取りに走り、少々身を硬くしながら恭平さんに話しかけた。
「恭平さん……。手で拾って破片でケガするといけないですから……わっ!」
「私がします」と言おうとしたけれど、素早く立ち上がった恭平さんに驚いて続けられなかった。
「ありがとな。でも、俺が始末するから……」
そう言う恭平さんの顔は笑ってはいるけれど、その目に若葉は映っていない。
ホウキとチリトリを受け取るために両手を伸ばしているその手は、僅かに震えている気もする。
否応なしにゆっくりと道具を差し出すしかなく、恭平さんが触れた瞬間、その振動が若葉にも伝わってきた。
恭平さんがこんな様子なのは、若葉にはそれとなく察することが出来た。
負わなくていい責任を感じていて、自分を責め続けている。
もっと言えば、容易に近づいては若葉を怯えさせるとまで考えているかもしれない。
でも、それ以上に……。