crocus

そうしたところで、次に浮かぶのは若葉ちゃんのことだ。

あの日…暗闇になったとき。

意識を手放してしまい、やっと戻ったかと思えば、目の前にはキャニスターを抱えてうずくまる若葉ちゃんと散らばったコーヒー豆が目に映った。

記憶のない間に一体何が起こったのか。
聞くことが、恐かった。

それでも若葉ちゃんの肩で青紫に広がった痣を見れば、瞬時に理解出来た。

笑って否定してくれた若葉ちゃん。
気づかなければ、そのまま痛みを隠し通していたに違いない。

キャニスターはガラス製のもの。男の……しかも手加減なしの振り落とす力が命中したとなれば、相当な痛みだっただろう。

手に持っていた2つのキャニスターの内、1つが散らばっていた。ということは、もう1つのキャニスターも叩きつけようとしていたところを若葉ちゃんが必死で守ってくれた。

十中八九その流れでの、怪我。
故意じゃないから、心神喪失だったからといって、とても許されることじゃない。

守ってあげないといけない女の子に、ステージで「信頼されたい」と小さな体で健気に明るく振舞う若葉ちゃんに、メイド服がかわいい若葉ちゃんに……

手を上げるなんて、最低だ。


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