crocus
「そういや自己紹介まだだったよ、な……。俺──」
「へぇ!上田恭平(うえだきょうへい)かぁー!若葉ちゃん。それよりも、ちゃーんとベッドで寝るんだよー?」
若葉が待っていた言葉は視界の下……つまり上矢さんの口から発言された。
「お前なぁぁ……」
顔を伏せ、地響くような低い声を出しながら肩をわなわなと震えさせる上田さんを見て、抑えきれず若葉は声に出して笑った。
「上田さん。上矢さん。ありがとうございます。……おやすみなさい」
頭を深々と下げた後、穏やかな気持ちで笑えば、何故かポっと頬を赤らめる2人。
返事は返って来ず、スススーっとぎこちない動きで部屋から去っていった。
再び静かになった部屋で上矢さんの言ってくれたことを思い出し、ベッドに向かってお辞儀をした。
「お借りします」
ぽふぽふと布団の感触を確かめた後、毛布の中へ侵入しながらゆっくりと体を横たわらせる。
すると雨に打たれたせいで疲れていたのか、数分もしない内に瞼の重さに耐え切れず眠りに落ちた。