crocus
肩をゴリゴリと強く揉み、琢磨の悲鳴を聞きながら、隣に座る誠吾を見ればただ1人朝のテレビを見ていた。
誠吾は、ド天然天使だ。
きっとどっかの鬼畜コンビとこの生意気クソガキと違って俺を酷使したりしないだろう。
「あっー!ボク、今日のラッキーワード『掃除』だってー!お部屋の片付けしようかな」
ゆっくりと誠吾の首がこちらに回る。
淀みのない透き通った2つの瞳を潤ませながら、上目遣いで言いなさった。
「恭平、手伝ってくれるー?」
誠吾の部屋はガラク……いや、コレクションの山だ。部屋がうるさいなんて表現は誠吾にしか使ったことがない。きっとこれからも誠吾にしか使わないだろう。
ミニカー、フィギュア、缶バッジ、キャンドル、DVD、CD、アクセサリー。
全ての位置が決まっていて、少しでも場所を間違えれば、この天使がクロッカスの最高権力者のオーナーでさえも手がつけられない暗黒世界の悪魔に変わる。
そんな精神がすり減るような部屋は……いやだ。一歩も入りたくない。けれど今の恭平の返事は1つしか許されていなかった。
「……はい……喜んで」
恭平が精一杯の笑顔で返せば、誠吾が嬉しそうにお礼を言った。
ふぅと息を吐き出すと、誠吾の前の席が寂しいことに目がいく。
そう、若葉ちゃんが朝から一度も顔を見せていない。
「なぁ、琢磨。若葉ちゃんは?」
「うーん……そうなんだよな。まだ寝てんのかなぁ?」
視界の横で誠吾が動く。
「ボク、見て来ようかなー」
「いっ、や!あ……俺が、俺が行ってくる!」
きちんと謝るチャンスだと思った。それでも筋金入りの俺の中のヘタレが話しかける。
『お前に会いたくないのかもしれないぞ。避けられてるかもしれないぞ』
そうだよな……と、思い止まろうとした時、リビングの扉がゆっくり開いた。