crocus
当然、若葉ちゃんだと思って期待と緊張で身構えれば……現れたのはオーナーだった。ふっと膝の力が抜ける。
「おはよう。……なにしてんの恭平」
「いや……なんでも、ねぇ」
可愛い女の子と思い込みからのオカマ登場は、シュートがゴールポストのバーに弾き飛ばされるくらいの残念さ。
這いつくばる体勢だった恭平はフラフラと立ち上がった。
「若葉ちゃんは、今日一日いないから」
オーナーの言葉に恭平だけじゃなく、全員の箸が止まった。
「なんで?」
間髪入れずに問う琢磨。オーナーは珍しく「んー……」と言い澱んだ。
「まー……ちょっと、ね。……それより、恭平」
声色を抑えたオーナーは腰に手を当てて、真剣な顔で恭平を見据えた。オーナーが言いたいことを悟って、先に話した。
「……昨日はすいませんでした」
「要から事情は聞いてるわ。馴れ合い喫茶じゃないのよ、それは分かってるわよね」
「はい」
「……ったく。あんたの一杯のコーヒーの意味を考えなさい。その答えが出るまで、店には立たせられないわよ」
オーナーは車のキーが付いたキーホルダーを指に通してクルクルと回しながら手を振った。
「それを言いに来ただけだから、私はオーナー業務があるし家に帰るわ。じゃあね~」
ユラユラと手を振ってリビングから出ていったかと思えば、少しだけ扉を開いてギョロリと目玉を見開くオーナー。
「な、なんだよ!釘刺さなくても……」
「……お残しは許しまへんえー!」
「は?んだよっ?つか若葉ちゃんはどうしたんだよ?」
「……………さぁねぇ」
それだけ言うと、パタンと扉が閉まった。
目だけで何かものすごく恨みがましい怨念をぶつけてきたんですけど……。
でもオーナーはあだ名なんかじゃなく、やっぱり締めるとこは締めるオーナーだ。
若葉ちゃんの居場所も、オーナーが知っているなら問題ないだろう。