crocus
外に出て親父さんの加勢になろうかともう一度様子を見れば、怪しいスーツ男2人は路肩に停めていた黒のベンツに乗り込もうとしていた。
理容室の親父さんは、なお厳しい剣幕のまま仁王立ちして鋭く睨みつけていた。
加勢なんて、必要なかったな…。
車がドルンと大きなエンジン音をばら撒いて去って言った後、窓を開けて親父さんに声をかけた。
「親父さーん、あいつらなんだってー?」
恭平に気づいた親父さんは、さっきとは打って変わって自慢のヒゲをクイっと上げてダンディーに笑った。
「おう、恭平。ペラペラの小切手渡されて『好きな数字を書いてください』ってアホなこと抜かすからよ、冗談じゃねぇってパンチパーマ用のコテをちらつかせたら帰ってたぜ」
「ははっ、そっかー!でもなんかある前にさ、身重の奥さんいるんだし俺たちのとこ来てよー?」
「ばーか!小童に頼るほど老いぼれてねぇよ!自分の大事なもんくらい、自分の手で守らねぇでどうするってんだ!でも、ありがとな。じゃ、母ちゃんが中で心配してるから…またな」
「おー、またなー」
親父さんは理容室の中に戻っていった。恭平はその姿を見届けると、またベッドの上にゴロンっと転がった。
「大事なモノ…か」
自分が何を手にしてきて、何を無くしてきたんだろう。
何を大切にしたくて、何を忘れてしまったんだろう。