crocus
丸い乳白色のアクリルカバーの蛍光灯をフワっと掴むように手をかざしても、当然なにも掴めないまま握り拳になった。
それがなんだか今の自分のようで、胸の空洞の深さが増していく。開け放したままの窓から、吹き込む冷たい風を吸い込めば身体の内側から、カラカラに乾いていく気がした。
感傷に浸っていたその時、扉からやや控えめのノックが耳に届いた。
自分の作り出した負の世界にまたもやトリップしてしまっていた恭平は、パンっと両頬を叩いて意識をシャキっとさせた。
「あ゙ーい……ゔん゙っ!……誰ー?」
乾いたままだった喉をそのままに声を出すと咽そうになって、急いで咳払いして調子を整えると予想外の声が聞こえた。
「恭平さん?あの……わたしです」
「若葉ちゃん!?」
慌てて扉を開ければ、自然と上目遣いで見上げる若葉ちゃんと視線が合った。
ドキっとして目を逸らした先、若葉ちゃんの手の平の上にトレーが乗っていて、湯気が立ち上るエスプレッソのカップが2つ置いてあった。
恭平は少し驚きながらも、大きく扉を開いて若葉ちゃんに部屋に入るように促した。
「いつ帰ってきたの?」
「えっと、30分くらい前でしょうか……。すみません、こちらのテーブルに置かせてもらっていですか?」
「え?おっ、おう、いいよいいよ」
トレー1つがちょうど乗るサイズのテーブルに若葉ちゃんがゆっくり置くと、ガラス製のそれはカツンと音を立てた。
両手が開いた若葉ちゃんはその手をぎゅっと握り合わせて、頭を素早く下げた。恭平は「えっ!?」と声を上げてあたふたと慌てた。
「すみません、恭平さん!ここのエスプレッソマシンとかミルとか、勝手に使用してしまいました。キチンと片付けはしたんですけど、不備があったらごめんなさい!」