crocus
「ごめんな?ありがとう……」
今日の朝から、そんな想いで自分のために一所懸命に練習してくれたのかと思うと、もうどうしようもない気持ちが溢れた。
よしよしと頭を撫でながら、ぎゅーっときつく抱きしめれば、その体の温かさにホロホロと心が柔らかく溶け出した。
「俺、思い出したよ。バリスタになろうと思った理由も、コーヒーが好きになったきっかけも……」
若葉ちゃんはゆっくりと体を離すと、小さく「ごめんなさい」と言って、慌てて両目に溜まっていた涙を指で拭った。
若葉ちゃんがベッドの隣に腰かけたので、カップを手渡してあげた。
「少し長くなるけど、聞いてくれる?」
静かに頷いてくれた若葉ちゃん。
雨はさっきよりも激しさを増していた。