crocus
すると、いきなり横からボトボトとボールが4~6個投入された。その手の持ち主を見れば、チームメイトで同じクラスの榊原哲平だった。
「…ちゃっちゃとやって帰ろうぜ」
「…哲平様!って、バカ!お前、弟待ってんだろ?保育園に迎えに行かねぇと!…今、母ちゃん入院してんだろ?」
「…だけど、お前1人…」
「んもー!いいから、いいから!気になって集中出来ねぇよ」
「……わり。じゃ、先に行くな?」
「おう。ありがとな!今日、夕飯持っていくから!」
振り返ることなく哲平は片手を上げて返事をして、大急ぎでグランドを駆けていった。
榊原哲平とは、家が隣で、母親同士が同級生という運命の再会を果たしたおかげで、何かと家庭の事情は筒抜けだった。
やれ旦那とケンカしたから泊めてくれ、やれ隣に温泉旅行に誘われたから行こうだのと、遠くの親戚よりも親しくしていた。
これまた偶然、同じ年に生まれた俺達。物心つく頃にはもう、優しすぎるヘタレの哲平がいつも隣にいた。
周りには『哲平』『恭平』の頭文字の響きを取って『鉄橋(哲恭)』なんて言われていた。