crocus
次第に呼吸が苦しくなってきた。暗闇と、室内の狭さから来る、焦燥感、圧迫感。
手足の皮膚がひんやりとするのは、血の気が引いてる証拠なのか。
そして何も見えない不明瞭さは、不安を抱かせる他に、心の奥の更に奥深くに潜む何かがいることを気づかせた。
バカバカしい
ありえない
そう思って大きくため息を吐いても、頭を揺さぶっても、ちっとも消えてくれない。
荒い呼吸をするたびに、恐怖を感じるたびに、そのドロドロしたものは益々大きく存在を誇張してくる。
(お前は、哲平を疑っている)
違う。
(お前は、哲平を疎ましく思っている)
違う。
(お前は、偽善者だ。哲平が辛い目に合って、助けていることで優越感を感じている)
そんなわけない。
哲平は、家族みたいなもので、いいライバルで、親友で、兄弟で…、大切だ、好きだ。
そんな感情は、知らない。
そんなもの抱えたらこの小さな体なんてすぐに潰れてしまうに決まっている。
それでも、それでも、聞こえた声は、ゴンゴンゴンゴンと激しくしつこく胸をノックして、耳を塞ぐことも、目を逸らすことも許してくれない。
逃げられないのは、潜む声が思い当たる影を逃がすまいと踏んでいるからだ。