crocus

サッカーを先に始めたのは俺だったのに、哲平も後に続いて入部すればすぐに実力に差がなくなった。

ポジションも被ってレギュラー争いになるし…、監督に何かと厳しく叱られるのは俺ばかり。

学校生活の中でも、哲平は絵画や作文で入賞することが多くて、そんな哲平と俺を誰かに比べられている気がして、表彰式で壇上する哲平に心から拍手を送ったことはなかった。

暗闇に映し出されたのは、第3者から見た、俺の歪んだ表情だった。

そんな闇を誰かに、知られることが物凄く怖くなる。

何よりも、それが存在していることを自分自身で認めることなんて、絶対に嫌だった。澱んだ感情を住まわせている家主になんてなりたくない。

黒い感情は声となって、暗闇の中、四方八方から語りかけ続けてくる。胸を掻きむしっても、深く根付いて絡んで離れてくれない。

どうにかなりそうで、助けてほしかった。

気づけば叫んでいた。

意味不明な言葉は、自分の激情を表していて、それがまた自分を怯えさせた。

暗闇の声に負けないように、屈しないようにひたすら無心になって体を暴れさせた。

悪魔の声を認めること、それは哲平の存在を否定することだと思った。一度、取り憑かれたら最後、もう哲平とは心から笑い合えない。

そうなれば小学生の俺にとって一番の悲しいことだと、それだけは知っていた。

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