crocus
「今日、俺んちで晩飯食う?」
「あー…、今日は母さんとこ行くから、帰りは遅くなるんだよね。晩ご飯は、留守番してる颯人に渡しててもらえるかな?」
「おっけ、おっけ。了解。つか、お前大丈夫か?県大会近いんだし、無理すんなよ?」
「大丈夫、チームには迷惑かけないよ。それに、手加減しないでよね。FWのレギュラー…俺か恭平か、なんだから」
「わぁーってるつーの。でも何か手伝えることあったら、遠慮なく言えよ?」
「…、うん、どーもね。じゃあ、先に帰るね。おばさんによろしく言っといて」
自転車に乗って、帰り道とは違う方向に曲がった哲平の背中を見届けて、恭平は家路へとユラユラと進む。
あの頃となんら変わりない会話。ライバルで、隣近所で、親友で、兄弟みたいな関係。
それでも、やっぱり一緒にいる時間は明らかに少なくなった。クラスも違えば、下校も一緒にならない。休みの日は、哲平は家族でお見舞いにいくことが多かった。一緒にいるのは、登校する時と、部活中くらいだ。
とはいえ、生まれた時から一緒に成長してきたんだ。言葉なんてなくても、努力家でしっかり者の哲平のことは知り尽くしていたし、絶大な信頼を置いていた。
それは、哲平にとっても同じ思いだろうと信じていたし、まさか裏切られるなんて微塵も感じたことはなかった。
県大会優勝が懸かった試合当日の朝までは。