crocus
思い返せば、確かに哲平の様子はおかしかった。けど、県大会優勝が目前にあるのだ。緊張しているんだな、と思う他なかった。
ウォーミングアップも終わり試合開始20分前。レギュラー発表をするために一度、キャプテンの藤崎の集合の声がかかるも、哲平の姿がない。
「俺、探してくる!ちょい待ってて!な?」
時間が迫る中、トイレや、控え室を隈無く探しても姿はなかった。
恭平は、ハッと思い出して、ある場所へと急いだ。
ここは小学生の頃からお世話になっている総合運動場。
昔、試合前になると何度か哲平が怖じ気づいたことがあった。
その時に決まって隠れていたのは、今は使われていない旧体育館のステージ上にある放送ブース。
「哲平!そこいんだろ!?気持ちは分かるけどびびってねぇーでさ、な?出てこいよ」
体育館内をツカツカと歩きながら、大声で呼びかければホワンホワンと館内全体に響いた。
「よっ」と息を吐いてステージに飛び乗り、隣接している放送ブースのドアノブに手をかけた。
勢いよく扉を開くと、そこには人影はひとつもなかった。見当違いだったと、今度こそ本当にお手上げだと思った矢先、真後ろから話しかけられた。
「…恭平」
「うわっ!…哲平…、おま、はぁー…、超焦るわ!何してんだよ」
「何で来ちゃうかな…」
呆れたように力無く笑いながら言う哲平は、心ここに在らずといった感じで、どう見ても様子がおかしい。