crocus
一歩踏み出して近づこうとした瞬間、シュタっと別人のような速さで哲平が近寄ってきて、同時に伸びてきた両腕に肩を強く押されて、放送ブースの木製の壁にゴウンと背中からぶち当たった。
「ってぇな…、ちょいちょい…哲平さんよぉ、冗談が過ぎるだろ…なぁ…?ははは」
腹立たしさを堪えすぎると笑えてくる。
ジロリと哲平を睨むと、悲しんでいるのか卑下しているのか、あらゆる感情が瞳を何色にでも変えていた。
真意がわからなくて、ぼーっとしていると、哲平がギーっと放送ブースの扉を閉めた。慌てて駆け寄ったときには、ガチャンと外から鍵をかける音が、全身にズシリと重く響いた。
「…何かあったら助けてくれるんだよね?だからレギュラーを、頂…だぃ?」
切羽詰まった声に、ギュッと胸を捕まれた。そして唯一、光が入る目の前の扉の小窓のカーテンをシャッと閉められた。