crocus
哲平の足音が早足で遠のいて、シンと静まる室内。
頭の中では、こんな木製の古い扉なんか蹴破って外に出ることも出来るかもしれない、そう思うのに…この状況では呼吸すら危うくて立ち上がれなかった。
あの時ほどではないにしろ、トラウマがある恭平にとっては十二分に戸惑う暗さだ。
一体なにが起こったのか、考えようにもどこから辿れば答えに行き着くのか分からない。
この試合だけはどうしても出たかったのに。60分間フルタイムでコートを走りたかった。
哲平が出たかった思いも分かるけれど、でもそれに負けないくらい俺だって出たかった。それだからこそ正々堂々と幼稚園から、中2の今まで切磋琢磨して争ってきたはずなのに。
でも…ふと気づく。
本当に哲平の気持ちを分かっていたんだろうか。あんなに追い詰められた哲平は、初めて見た。こんなこと平気でする奴じゃない。なにか事情があったんだ。
そうやって哲平を心の中で擁護する理由を挙げれば挙げるほど、汗がじんわり浮かんで、恭平は闇に引きずり込まれ始めた。
…ドクン ドクン ドクン
血が全身を駆け巡る速さが異常になって、1つ鼓動を打つ度に、薄暗い中ぼんやりと見える白い壁が幾重にもぶれ始めた。
「ははっ…やべぇな、これ…」