crocus
1時間後、放送ブースにまた陽の光を入れたのは哲平だった。汗だくのユニフォームを着ている哲平は言い訳一つせず、なにも話さなかった。
そして恭平自身も、哲平を責め立てたり、問い詰めるような言葉も全く口にしなかった。
横目で見た哲平の顔はひどく悲しそうにしていて、余計に腹が立つ反面、もうどうでもいいやと諦めてしまった自分もいた。
後から試合結果を聞くと2-0で負けたそうで、準優勝のトロフィーは鈍色を放って、掲げる藤崎の笑顔もモヤがかかったように見え遠くの出来事に思えた。
県大会が終わった後に、チームメイトや監督、両親にも何度も叱られ、事情を尋ねられたけれど何も口外しなかった。
別に哲平を庇ったわけじゃない。
自分のため。
暗闇が怖いことを自分から話して信じてもらえなかったり、軽蔑の眼差しで見られることにとても耐えられそうになかったからだ。
1つ気になったのは、恭平が暗闇に対して恐れの念を抱いていることを哲平がどうやって知ったのかということだった。
小学生の頃に閉じ込められている所を発見されたときに、その場にいたのは両親と担任の先生と数人の教師だけ。
小学生の頃に噂話も出なかったし、サッカーのチームメイトも何も知らない様子だったし、今まで暗がりに近い場所にいて哲平に心配されたこともなかったのに。
でも……もうそんなこともどうでもよかった。
暗闇と対峙して乗り越えることからも、哲平との仲を修復することからも面倒になって逃げたのだ。
サッカーはずっと続けたけれど張り合いがなくなってしまったまま、目標を失ったまま近所の高校へと入学した。