crocus
『たくま』さんは、若葉の頭をグリグリグリっと背が縮むと思わせるくらい強く撫でながら話す。
「なんだよ~、お前~!義理人情が分かってるいい奴だったんだな!!なんだ、そっかぁ……。じゃあ……昨日はあれ、だな。一方的にお前のこと責めてごめん!」
『たくま』さんは若葉を撫でていた手をそのまま顔の前にもっていくと、両手をパチンと合わせて申し訳なさそうに謝った。
そんな本気の謝罪に、若葉は焦りながら何度も首を振る。
「そんなっ!皆さんの雰囲気を悪くしたのは、どう考えても私ですから。それに……実は、ごはんだっておいしく出来たかどうかも……自信なくて……」
「んーにゃ!あいつらがどうでも、俺はお前の行動が嬉しいからいいんだよ!料理だってなぁ、美味いかどうかじゃなくてだなぁ……その、心意気、だけで……あーん」
器用に喋りながら、一つの皿から玉子焼きをつまんで口に放り込んだ『たくま』さん。
その一連の動きに半ば感心しつつ、ドキドキしながら感想を待ってみた。
『たくま』さんの顎が動くたびに、感想がいつ来るか、いつ来るかと胸の前で組み合わせた両手の指先に力が篭っていく。
「~~っ、うっまー!!いんですけどー!!」
少しオーバーなくらいに、うおーっと叫んで背中を反らせる『たくま』さん。
料理の合否もだが、不信感を和らげてくれたことにも一安心して、『たくま』さんの無邪気な反応を、ふふふっと両手を口に当てて笑った。
すると、うっすら頬を染めて我に返った『たくま』さんは、ゴホンっと誤魔化すように咳払いした。
「確か、雪村……若葉だっけ?俺は、あーらーや、新谷琢磨(あらやたくま)ね。よろしく」
開けっ広げに教えてくれた新谷さんにポンポンと頭を優しく叩かれた。
そんなに撫でやすい位置に頭があるのだろうか。
それか小さい子供みたいに思われているのかもしれない。
そんなことを思いながら若葉は「こちらこそよろしくお願いします」とお辞儀した。