crocus
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「…それから、長谷川のじっちゃんとこに、ほーぼ毎日通って、『コーヒーの作り方教えてくれ』って何度も頭を下げて頼み込んだんだ」
「…あれ?この間、高校卒業してから、バリスタの世界に触れたって言ってましたよね?じゃあ…」
パッとこちらを見た若葉ちゃんの表情は、とても驚いていた。よくその話を覚えてたな、と感心しながら、恭平は大袈裟に頷いた。
「そーう!口説き落とすのに2年かかった。『サッカーも、バリスタもなんてお前にそんな器用なこと出来るわけねーだろ!』って100万回は聞いたな、うん」
「ふふっ。でも、ついにご指導してくださったんですね」
「まぁな…、俺の性格上、じっちゃんの言う通りだと思ってたし、俺の覚悟と根性も試してたのかもな」
「長谷川さんは恭平さんのこと、よく見ていたんですね。…でも、お店のお客さんとしてじゃなくて、作り手になろうと思われたのはどうしてですか?」
そう、そこなんだ。忘れかけていたその理由を、若葉ちゃんのコーヒーが、もう一度教えてくれた。