crocus
そして感謝するのは、もう1人。じっちゃんが若葉ちゃんに作り方を教えたのは、俺のことを陰ながら心配してくれているからだと思う。じっちゃんには、最初から何でもお見通しなんだろう。
「理由は、2つあって…1つは、オーナーとの約束があったから。オーナーって、あぁ見えても教育実習生だった時があるんだぜ?」
「えっ!?…はっ!」
驚きのあまり、うっかりカップを落としそうになった若葉ちゃん。期待以上の反応に笑いを堪えて、話を続けた。
「ここの店員、俺ら5人みんな同じ高校出身って知ってた?」
「へ?そうなんですか!?」
「そうなんです!…で、俺が珈琲の木に通いだしてからしばらくして、オーナーが教育実習に来てさ…うっぜぇくらいに絡まれたんだよなぁ。たぶん他の4人も」
懐かしい思い出を、振り返りながらオーナーの口調を真似して若葉ちゃんに伝えた。
『コーヒーが好き?じゃあ、"好きこそ物の上手なれ"ね!あんたバリスタになりな。カフェ開くわよ!従業員の目星はついてるから!もちろんオーナーは私よ!』
「ふふふっ!オーナーは、ずっと前からオーナーだったんですね」
若葉ちゃんが肩を揺らしてクスクス笑うと、その振動がベッドに伝わって恭平に届いた。