crocus
「全っ然、出会って7年だけど、見た目も変わんねぇの。…まぁ、その言葉を真に受けたのは、どっかで俺もそう思ってたんだろうな。じっちゃん見ててコーヒーで、誰かの笑顔見れるっていいなって。救うって言ったら大袈裟だけど、やっぱり俺は救われたから」
「それが2つ目の理由なんですね」
しみじみと言う若葉ちゃんの言葉に、少し気恥ずかしくなったけれど、背筋を伸ばして小さく頷いて肯定した。
「ん、まぁ…じっちゃんのコーヒーには全然敵わねぇけどなっ!」
照れ隠しのために茶化して言うと、若葉ちゃんは100%本気で熱心に返してきた。
「そんなっ!技術的なことは分からないですけど…恭平さんのコーヒーは、もう恭平さんの味のコーヒーです。長谷川さんみたいにって比べる必要ないです。…実際に私は、恭平さんのコーヒーに救われたんです。今さらですが…ありがとうございました」
「若葉ちゃん…」
その言葉でオーナーに出された課題の答えが、見つかった。バリスタとして俺の作るコーヒーは、技術や知識だけ出来ているんじゃない。
俺のコーヒーで笑顔にしたい、そう思って今までやってきたはずだった。だけど本当は俺自身が、みんなの『ありがとう』の笑顔に救われていた。それが積み重なって、自信に変わってきていたんだ。
裏切りを恐れてサッカーのチームプレーよりも、バリスタという個人技を選んだことを、時々逃げだと思うこともあった。
だけど、気づかされた。個人技なんかじゃない、淹れたい相手がいてこそバリスタになれる。
もっともっと自分を好きになりたい。自信を持ちたい。
そのために飲んでくれる人と、心から信頼関係を結び直したい。若葉ちゃんが、元気になってほしいと純粋な思いを込めて淹れてくれた、このコーヒーを原点にして。