crocus
若葉ちゃんがギシギシと音を立てながらベッドに上がってきて、窓の淵に両手の指先を置いた。
ぼんやりと明るさは放つ星が、若葉ちゃんの横顔をふわっと照らしてくれた。
若葉ちゃんが、いてくれてよかった。あの日、初めて会った日に勇気を出して声をかけてよかった。きっと若葉ちゃんがいなかったら暗闇の中、今みたいにこんな穏やかな気持ちでいられる日なんて来なかったと思う。
若葉ちゃんに信頼を寄せていて、傍にいてくれるだけでも安心出来たからこそ、意識を自分以外に広げて改めて気づいたことがたくさんあった。
それは、これからの食事への感謝の気持ちだったり、バリスタとしての新しい試みへと形を変える大事な宝物になると思う。
「明日は、晴れるといいですね」
若葉ちゃんは空を見上げながら期待を込めて呟いた。「そうだな」と、返事をしながら、若葉ちゃんと同様に空を仰ぐと、ふと夜空に哲平の顔が浮かんだ。
何してんだろうな。
元気かな。
あいつも、この空の下にいるんだよな。
「会いてぇな…」
無意識の内に紡いだ言葉に、恭平自身が一番驚いた。まさか自分の中に、そんな想いが眠っていたなんて知らなかった。
いや、たった今…生まれた気持ちなのかもしれない。
もしまた…もう一度会えたなら、俺は静かに目を瞑ろうと思うんだ。何者にも囚われないで、お前の心の声に意識を集中させるために。
今度こそ、恐れて逃げずに向き合って真実を聞くために。