crocus
「ごめんな?こんな俺のこと、怖ぇよな。だから今まで近づかないようにしてたんだけど…」
俯いていると両手をハシッと握られ、ビックリして真正面を見れば若葉ちゃんは正座をして、目を閉じたまま恭平の両手を彼女の額にくっつけた。
「私、恭平さんの淹れるコーヒーが大好きなんです。『ここに居ていいんだよ』って言ってくれてるみたいで。あんなにホッと出来て、美味しいコーヒーを淹れられるこの手の持ち主さんが、怖い人じゃないことくらい、みんな知ってます」
"だから、恭平さんは悪意さんを飼い慣らせません"
バッと若葉ちゃんの手から両手を引き抜いて口元を手で押さえながら、背中を向けた。指の隙間から漏れる呼気は熱い。手の甲には、いくつもの雫の線が流れてく。
いつも誰かに言って欲しかった言葉。呪文のようなその言葉で背負い込んでいた荷物がドサリと落ちて、心がふわっと軽くなった。その代わりに、沸き上がる安堵感が胸いっぱいに押し寄せて、涙に変わった。