crocus
説明書きを参考にすると、ドーム型のスポンジの上には、生クリームが塗られていて、その上には桃のソース。頂点には、小さなベリーとミントの葉が添えられていた。
「それは、若葉ちゃんのイメージだよ。見た目は可愛いくて、ほんわかしてるんだけどー、芯がぶれない強い信念を持ってる感じ!どう?食べてみたいー?」
「はい!それは、もちろん!けど……私、誠吾くんが思うような大層な人間じゃないです……」
立派な人を思わせるイメージと、期待を裏切る実際の自分との差が激しくて、桃のケーキの絵を見るのが少し恥ずかしい。
メモ帳の隣のページを見てみると、鉛筆で塗りつぶしてチョコレートを表現しているケーキが描かれていた。
それは、つい先日のランチタイムで添えられたチョコレートケーキそのものだった。
デザインされたケーキがそのままお客様に出されている。ということは、この桃のケーキもいつかは……、そう思うと大きくドクンッと鼓動が跳ねた。
「あ、その若葉ちゃんケーキは僕が1人で作って、1人で楽しむから安心してねー」
「へっ!?」
若葉は考えを見透かされて、思わず頭を押さえた。誠吾くんは、ぷくくっと吹き出して笑っている。
お客さんには出されないのだとホッとしたけれど……誠吾くん1人で楽しむからというのも、それはそれで恥ずかしいのですが。
若葉は話題を変えようと、誠吾くんにお願いをしてみた。
「このメモ帳、他のページも見せてもらってもいいですか?」
誠吾くんは快く許諾してくれたので、椅子に深く腰かけ姿勢を正すと、1ページ1ページ丁寧に捲った。
メモ帳の中にはチーズケーキ、モンブランと一般的なものから、『糖尿病恭平』や『ヒンヤリかなめん』など変わったものも描かれていた。
他にもプリンや、パフェ、クレープ、アイス類もデザインされていて、見ているだけで楽しくて幸せな気分になってくる。