crocus
誠吾くんに対する敬語が今一つ抜けきれない日々を送っていたある日のこと。
若葉達は空港行きのバス停の前に勢揃いしていた。
オーナーさんが海外へ食材や装飾品などの買い付けに行くことになったのだ。
今年は3回目だというから、4月に入った今、ほぼ月1計算だ。もしかしたら新入りの若葉のために、3月に海外に発つのは控えてくれたのかもしれない。
そう考えたら、寂しいだなんて漏らすわけにもいかなかった。だけど、こうしてスーツケースや、バス停を目の前にすると、どうしても笑えなかった。
「もぅ、若葉ちゃん。そんな悲しい顔しないで?見てよ、恵介なんて『さっさと行ってくれないかなー。いちいち見送る意味も分からないや』って顔してるんだから」
「さすがオーナー。だけど、おしいな。『帰ってこなくていいよ』が抜けてる」
「いい?若葉ちゃん。何かあってもなくても、さっき教えた番号に電話するのよ?ホテルに着いたら、真っ先に手紙を送るわ」
オーナーさんは橘さんの辛辣な言葉を物ともせずサラリと交わして、若葉に優しい言葉をくれた。
「……はい。オーナーさんも気をつけてくださいね?私は私の出来ることを頑張ります」
オーナーさんは若葉を抱き締めると頭をよしよしと撫でた。