crocus
ヒーローもご自愛ください
「それじゃ、ま……帰りますか!」
オーナーさんがやっと乗り込んだバスが見えなくなると、そう言った恭平さんが背伸びをしながら先陣を切って歩き出した。
「あああーーー!!」
後に続いて若葉も歩き出そうとしたけれど、キーンと高い声が後ろから聞こえて、膝の力がガクッと抜けた。
その声の犯人は、誠吾くんだった。少し苛立ったように頭を掻きながら琢磨くんが尋ねた。
「っんだよ、誠吾。うるせぇなぁー」
「ボク、ハガキをポストに投函しなくちゃ!みんな先に帰っててー!ごめんねー」
すでにピューンっと走り出していて、最後の「ごめんねー」は風に乗って届いた。そして、もう1つ届いたものが……。
面倒臭そうにふらりと屈んでそれを拾い上げたのは、桐谷さん。
「あのバカ……。ハガキを落とすなんて本末転倒だ」
「私、追いかけて届けてきます。みなさんは先に帰って、お昼からの開店準備してください」
「そうか?……それでは、頼む。誠吾がすまない」
さすがに口には出さなかったけれど、桐谷さんってお母さんみたいだなと思った。
正直、先ほどまでオーナーさんがいなくなってしまったことが心細かったけれど、なんとかやっていけそうな気がした。