crocus
帰り道はなるべく早歩きで、クロッカスを目指す。若葉にとっては最速のつもりだけれど、誠吾くんは鼻唄混じりの余裕綽々で、若葉の歩幅に合わせて歩いてくれているようだった。
母親のような気持ちになることがあるけれど、やっぱり誠吾くんは男の子なんだなーっと改めて思った。
「あっ!」
「えっ?」
またまた突然ピタッと足を止めて、声を上げた誠吾くん。
驚きすぎてバクバクと波打つ胸を押さえながら、誠吾くんが見つめる視線の先を辿る。するとフェンスを越えた公園内の1本の大きな木にピントが合った。
その瞬間、ヒュッと若葉の視界を過ぎて行った誠吾くんの影は、一目散に公園内の木の根元まで駆けて、その場にそっと屈んだ。
その背中がなんだか寂しそうに見えたので、急いで若葉も誠吾くんの元へ駆け寄った。
「誠吾くん?」
「……落ちちゃったみたい」
そっと近づいて隣から覗き込むと、お皿のようにくっつけた誠吾くんの両手の上に雛鳥が「ピー、ピー」と可愛らしく鳴いていた。
雛鳥が落ちたと思われる鳥の巣は、木の上ですぐに見つけることが出来たけれど、結構な高さに位置している。周りを見渡しても、脚立や梯子になりそうな物もない。