crocus
これ以上ないほど皺が寄っている眉間が凄く痛い。嗚咽を我慢する故に、今にも顎も喉の奥も吊りそうだった。
「え、若葉ちゃん?」
上から声が降ってくる。ガサガサと葉が擦れる音がするのは、きっと下の状況に驚いた誠吾くんが降りてきているんだろう。
極度の緊張と安堵に同時に打ち震えた体は、なかなか落ち着かない。
なんともないのだと言いたい。心配かけたくない。こんな状態は初めてで、自分でさえ上手く説明出来ないのに、こんな姿を見せたら誠吾くんを困らせるだけだ。
分かってる、もう頭では分かっているのに心が着いていかない。
やっと地面に着地してくれた誠吾くんの手が肩に触れると、更に安心感が込み上げてきて「ゔー、ゔー」と決して可愛いなんて言えない呻き声が出た。
すがり付くように誠吾くんのサルエルパンツを掴むと、ふわっとお揃いの洗剤の香りがした。
若葉の頬に、誠吾くんの大きくて骨張った手が添えられると、それに自分の手のひらを重ねた。
体温を感じることが、こんなに安堵感を生むなんて……。やっと誠吾くんの無事を実感することが出来た。
「若葉ちゃん……。もしかして、びっくりさせちゃった?」
「……ごめん、ね?私にはとても登れない高さだったから、オーバーなくらい動揺しちゃった……」
下手な笑い方で誤魔化して、誠吾くんからは見えないように、涙を指のひらで広げ伸ばすように拭った。
もう大丈夫と思えたのに、誠吾くんの口から当然のように出た言葉に、軽いショックを受けた。
「……ボクがケガすると、若葉ちゃんも責任感じちゃうもんね……。ごめんね?」
あぁ……、そういうことなんだ。
誠吾くんは周りの人や動物達に、たくさんの思いやりを当たり前のように与えてくれる。
だけど誠吾くんは自分自身を労ることが、すごく不得手な人なんだ。……むしろ完全に拒んでいるかのようにも窺える。