crocus
その理由は分からないけれど、別に誠吾くんはわざと危なっかしいことをしたわけでも、まさか私が心配をしているだなんて思いもしなかったんだ。
なんて…、なんて危うい人だろう。どうすれば、自分を大切にしてくれるようになるんだろう。
「誠吾くん。私は…誠吾くんが、初めて会った時から優しくしてくれて、本当に本当に嬉しかったよ…?」
「どうしたの…?若葉ちゃん…」
同じ視線になるように屈んでくれた誠吾くんの片手をギュッと両手で握りしめて、積もりに積もっていた感謝の想いを伝えた。
「居場所がなかった私に、泊まっていいよって言ってくれた時。若葉ちゃんって名前で呼んでくれた時。仕事で失敗したら、笑って励ましてくれた時…」
どんどん蘇る記憶を思い付くまま口に出していく。誠吾くんは、静かに聞いてくれていた。
「私はいつも誠吾くんには、ありがとうとしか思ったことがないよ。誠吾くんがいなかったら、私…クロッカスのみんなの優しさも、この街の人達の温かさも知らなかったよ?…だからね…」
止まったはずの涙がボロボロ溢れ、鼻水まで垂れてきた。だけど、構わず続けた。今この瞬間、この言葉を伝えたかった。
「私の大切な…ひっ、せいごくんをっ、っく…お願いだからっ、大事にしてください!」
「ボクが、ボクを大事にしたら、若葉ちゃんは嬉しい?」
「…ゔんっ」
若葉が声を絞り出して肯定すると、眉をハの字に下げた誠吾くんにギュッと抱き締められた。流れてくる鼻水を、誠吾くんの服に付けまいと、何度も鼻をズッ、ズッと啜る。
「…信じられないかもしれないけど…僕、小さい頃から、こうやって人に触れると…、その人に憑いている守護霊が見えるんだ」
グッと背中に回っている誠吾くんの腕に力が籠った。高鳴る鼓動を、同じ胸で感じとれば、一心同体になったように思えた。
右耳からは、落ち着き払った呼吸と、ゴクリと動く喉の音を間近で拾えた。