crocus
何事も前向きで、いつも笑顔の誠吾くんが、これほど言葉に迷っている姿も、何かに怯えている姿も初めて見る。
誠吾くんは、ゆっくり体を離して、若葉の顔の真ん前で柔らかく優しく微笑んだ。
「初めて会ったときに…若葉ちゃんに抱きついたの覚えてる?」
思い返せば、すぐにその場面に行き着いた。確か、誠吾くんの背後に見えたお花の幻に気を取られている間だった。
「そのときにね、視えたんだ。若葉ちゃんのお父さんと、お母さんが。すごく優しそうで、とても心配してた」
「お父さんと、お母さんが…私の守護霊に?」
「信じなくても、いいんだよ?ボク、ちゃんと分かってるから。人間にも、宇宙人にもなれなかった出来損ないだって」
「信じます!信じないわけないじゃないですか!…だって、私…今、すごく嬉しいです。…見守ってくれてるって知って……、ふっ…一人ぼっちじゃなかった…」
「…若葉ちゃん」
あやすように、宥めるように誠吾くんは頭をそよそよ、ふわふわと撫でてくれた。
誠吾くんの言うことは、始めから真っ直ぐに信じると、とうの昔に決めていたこと。それがもっともっと強固な信念へと変わっていく。
見ず知らずの若葉に対して、宿泊を提案してくれたのも、帰る場所がないことを悟っていたのも、誠吾くんの特別なその力があったから。もっと言えば、その力が無ければ、私はここにいないとハッキリ言える。
「私、誠吾くんに会えて良かったです」
「本当に?…奇遇だね?今、僕も同じことを思ったよ」
ちょっと気恥ずかしくなって、なんだかくすぐったくて、どちらからともなく笑い合った。そして、真顔に戻して放った言葉は見事シンクロした。
「お店…」