crocus

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開店準備中に遅れて帰ると、真っ先に桐谷さんに冷ややかな視線が突き刺さった。

事情を話しても言い訳に聞こえてしまうだろうと思い、ただただ謝って、遅れた分と取り返そうとクルクルと目を回しながら、頑張って働いた。

閉店後、罰として与えられた店内の掃除を誠吾くんと2人で終えて、時計の針が示す時刻は20時を少し過ぎていた。

先に誠吾くんを部屋に返し、若葉はリビングから救急箱を持って、誠吾くんの部屋をノックした。

返事が帰ってきた後、扉を開くと視界の左側で、誠吾さんはベッドにうつ伏せになっていた。

「誠吾くん?お休み中に、ごめんね?…私の勘違いじゃなかったら、お昼に木で、背中をケガしたんじゃない、かな?」

「あれぇー…そうだっけ?でも、全然へっちゃらだよー?」

誠吾くんは、睡魔の囁きに負けようとしていて、喋り方が4割増でおっとりしている。

「でも…うつ伏せで寝るほど痛いんでしょ?…誠吾くんはそのままでいいから、見せてくださいね?」

「うー、ん…」

誠吾くんはふわっとお腹を浮かせてくれた。手伝いをもらいながら、服を捲ると、木の枝で擦れたような赤い傷の線が細かく何本もあった。こういう傷が、地味にすごく痛いものだ。

抱きしめ返したときに、誠吾くんが「ゔっ」と息を潜めたことから、背中を痛めたのだと確信していた。だけど、手のひら大のなかなか広い範囲だとは思わなかった。

「しみるけど、我慢してね?」

消毒液を含ませた脱脂綿を、ゆっくりゆっくりと近づけていく。ちょんちょん、と触れると、誠吾くんが「み゙ゃ!」とか「ぎぃっ!」とか奇声を上げた。

なんだろう…心が抉られるような罪悪感で、ちょっと心苦しい。

でも、その反面いけないと分かっていても、楽しいと思っている自分もいた。

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