crocus
消毒が終わると、大きなガーゼ2枚をマスキングテープで固定していった。張り終わると、そのガーゼの上から手をグルグル回す。すると摩擦熱でだんだんと温かくなっていく。
「あ~、それ、いい気持ちいいなぁ」
「ふふっ……だよね?お母さんは、お腹痛いときとか、絆創膏の上から、こうして仕上げに撫でてくれてたの。不思議と痛みが引いていく魔法の手だったなぁ……」
「そっかぁ……」と吐息混じりに返事をした誠吾くんを見れば、瞳を閉じていて、猫のように口角がクルンっと上がっている。
まったりとした時間が流れる中、撫でる手を止めて、きちんと服を直すとふかふかの布団をかけてあげた。
すると眠ったかと思っていた誠吾くんが、ポツリポツリと言葉を紡ぎ出した。
「ありがとー……。今日はボクのせいで、ごめんね?」
「あ、そんな……。誠吾くんがいなかったら、あのヒナは巣に戻れてないもの。私に謝ることは何もないよ?」
「そうかなぁ……?んふふっ……。若葉ちゃんのお父さんとお母さんに感謝しなくちゃ。……僕のこの体質は守護霊と会話することは出来ないけれど、……こんないい子に育ててくれて、ありがとうって言いたいなぁー」
「誠吾くん……」
若葉は救急箱の中を片付けながら、小さい頃や、学生の頃のことを思い出す。
小学3年生を目前にして事故で亡くなった両親と、誠吾くんのおかげでやっと通じ合えた。
朧気で薄れかけていた日々の記憶が、また鮮やかに色付く。