crocus
お父さんとお母さんが天国から見守ってくれている、今までそう思い込んできた。
それなら恥じることのないように真っ当な人間であろうと自分を叱咤して頑張ってきたつもりだった。
だけど思うよりも身近で護られていたことを知れて、愛されていたんだと再確認出来た。
いつだって、一人じゃなかった。私はちゃんと2人の娘だった。
そんな当然の事実を改めて実感すると、今までずっと遠ざけては気づかないフリをしてきた、残された側の寂しさが少し和らいでいく。
心持ち1つで、こんなにシャンと背筋が伸びて視界が明瞭になるなんて、誠吾くんに触れて癒してもらったのかもしれない。
きっかけは誠吾くんの特別な力かもしれない。
だけど、やっぱり誠吾くん自身が元々持っている優しさが、いろんな糸を繋げてくれたことは間違いない。
「若葉ちゃん……。ボクのこと怖くない?」
誠吾くんは枕に顔面を沈ませて、くぐもった声で訊ねてきた。若葉はしっかり聞こえるようハッキリと言葉にした。
「じゃなきゃ、ここにいません!」
「……うん。そっ、か。……ボクね、ちゃんと若葉ちゃんのお願いを叶えたい。だから、そのために過去と向き合うから、そばにいてくれる?」
若葉は返事の代わりに布団の中から誠吾くんの手を探り当てて、勇気を分けるようにぎゅっと握った。
誠吾くんは枕に埋めていた顔を左に向けて、絵本を読み聞かせるような穏やかな口調で語り始めた。