crocus
小学生になっても、視えるらしいよ、と噂話は付いて回った。時には、気持ち悪いと、いじめられたりもした。
だけど、「信じたければ、信じればいい」と思うばかりで、周りの反応に一喜一憂することもなかった。
例え、誰かに触れて視えた守護霊が、その本人に強く何かを警告していたとしても、口外することは一切なかった。
後日、本当にケガをしていたとしても、心を痛めて罪悪感を感じることよりも、自分の心を守ることの方が、その頃の誠吾には重要だった。
そんな誰にも心を許さない日々を送っていても、大好きな時間があった。
「ただいまー!お母さーん、おやつー!」
「誠吾、おかえりなさい。準備出来てるから、手を洗って来てね?あっ、あと…」
「うがい!…でしょ?分かってるよー」
のんびりと穏やかでいつも笑っているお母さんが、一番の自慢だった。
そして、そんなお母さんと一緒に、おやつを作る時間が唯一自分が自分らしく振る舞える幸せな時間だった。
おいしいお菓子が出来ると、帰ってきたお父さんとお母さんと一緒に食べれば、食卓には会話と笑顔が絶え間なく華咲いた。
そうするとテレビで見た、綺麗で精工な西洋菓子を作るパティシエという職業を知って、いつしか自然に憧れるようになった。