crocus
初めてのマラソン大会を目前に控えた、2月の頃。双子の門倉翔、祥とは、休日になればお互いの家を行き来するほど仲良くなっていた。

だけど、未だに『触れると、守護霊が視える』ということをカミングアウトはしないまま。信じる、信じないの前にまず、今さらどんなタイミングで話せばいいのかも分からない。

それに全てを知ってやっと友達というわけでもないし、明かしていないからと言って、翔と祥と接することには何ら影響を及ぼさなかった。

「ねぇ、翔と祥を見なかった?」

「あ、確か……、購買部に行く途中に、旧校舎の前で4組の乾くん達と一緒にいるとこ見たよ?」

「ありがとう、行ってみるねー」

同じクラスの女子にお礼を言って、旧校舎を目指して廊下をパタパタと駆け出しながら考えた。

乾くん達って見た目がなんだか恐いけど……、翔と祥と知り合いだって知らなかったなぁ。

そんなことを思っていると、旧校舎へと繋がる廊下で十数メートル先に数人の学生が見えた。

乾くん達は5段ほどある階段に座っていて、誠吾に背中を向けて立っているのは、見覚えのある翔と祥の後ろ姿だった。

誰も誠吾に気づくことなく、向こう側だけで会話は続いていた。声をかけようとしたけれど、乾くんの言葉に一瞬思考が固まった。

「なぁ、頼むって。お前らなら、マラソン大会で1位になるなんて簡単じゃん?賭けに負けたら、坊主にしなきゃいけねぇんだって」

賭け?マラソン大会?

話が見えない誠吾を他所に、翔と祥はいつものように飄々と息の合った返事をした。

「俺たちのどちらかが初めから棄権して、棄権した方はゴール前に潜んでおく」

「そして、もう片方はほどほどの距離を走ったら、体調が悪いフリして姿を隠す。そして、いい頃合いに潜んでいた方が余裕のゴール……ねぇ」


< 227 / 499 >

この作品をシェア

pagetop