crocus

そして時の流れは止まることなくあっという間に部屋のカレンダーは中学1年最後の月、3月になった。

誠吾は自室で、過ぎた2月のカレンダーの裏に、いろんなケーキやデザートのデザインを描いていた。

そんな中、聞き慣れた玄関の扉が開く音がした。ふと時計を見れば午後2時前。今からお菓子を作ればちょうど3時には食べれそうだ。

部屋の片付けもそこそこに下の階へ降りると、お母さんが自分の体や玄関に塩を振っていた。

一瞬、疑問符を浮かべたけれど、お母さんの喪服姿を見て思い出した。今日は仲良くしていた知り合いのお葬式だったらしい。

誠吾自身は会ったことはなかったけれど、昨日から大きなショックを受けているお母さんを見れば、すごく惜しい方が亡くなられたのだと分かる。

こんなときこそ自分のケーキで、少しでも元気にさせる出番だ。

「お母さん、おかえりなさい」

ハッと振り返ったお母さんは今まで見たことがないほどに、泣きそうな不安そうな顔をしていた。

それは誠吾にまで感染して、突然降りかかった言い様のない不安に苛まれた。嫌な予感しかしない。

もしも信頼されている世界中の母親が一斉に弱ると、きっと世界は簡単に終わるんじゃないだろうか。

「ただいま、誠吾。……神様はいじわるばかりするね」

ふわっといい香りがするお母さんに抱き締められたのは、どのくらいぶりだろう。

思春期真っ只中の誠吾にとって、とても恥ずかしい思いだったけれど、それと同時にお母さんの小ささに驚いた。

もちろん誠吾が大きく成長した証拠なのだろうけれど、母親は1人の大人の女の人なんだと思ったのは初めてだった。

小さい頃には完璧で絶対的な存在だったお母さん。だけど、そうじゃない。お母さんだって人間だもの。弱るときだってあるのだ。

だから交代。今度はボクがお母さんを守ってあげなくちゃ。


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