crocus
忘れていたわけじゃない、人に触れることもあったし、それに伴って確かに視えた。だけど、まさか今さら噂が広まるだなんて夢にも思わなかった。
それに、今の話は事実と多少異なる。悪意も感じ取れる言い回しだ。誠吾が視えるのは、守護霊だけ、ましてや話すことなんて出来ない。
それに、特別騒ぐことじゃないはず。そんな体質の人がテレビ出ることだってある。
どうして、自分だけが?
一体、誰が何のために発信したんだろう。こんなことしたって、得する人なんていないのに。
集団で屈服させようとするような視線の多さに、否定や訂正をしていられる余裕もなく、本気で気分が悪くなってきた。
吐き気と共に、足元がふらつくと絡まり合って、よろけそうになった。床はコンクリートの廊下だというのに、受け身を取る意識すら芽生えない。
初めに当たるのは、頭か肘か、背中かと考えていたけれど、体の傾きは30度くらいで止まった。
「朝ごはん食わなかったのか?」
「だから、ちっせぇーままなんだよ」
「翔ぅ~…、祥ぉ~…、ありがとう」
ぶつかる寸でで翔と祥が、しかと受け止めてくれたようだった。背中に当たる、2人の手が温かくて気分が安らいだ。
2人とも、荒い息を吐いて、額には汗を浮かべている。もしかしたら、走ってきてくれたのかな。