crocus

「はよ」

「遅ぇ」

「ごめーん!ふふ、ねぇねぇ…貼り紙を見に行く前に…はい、これ!門倉兄弟、誕生日おめでとー!」

少しの沈黙のあと、翔と祥の頬がカァッと赤くなった。2人のこんな表情は、初めて見る。

「チッ…バカ!声でけぇよ!」

「んだよ、この箱。開けんぞ?」

「えへへ!うん♪」

翔は、祥にもよく見えるようにしながら、ゆっくりと上の箱を取り上げた。

姿を現したショートケーキに乗るいちごが、朝の太陽に照らされて、みずみずしく輝いた。

余程驚いたのか、何も喋らない翔と祥の顔を見上げてみると、茫然自失の表情で、瞳に色が感じられなかった。

予想外の反応に、誠吾も何と言えばいいか分からなかった。やっと出てきた言葉に、すぐに祥が返してきた。

「もしかして、…嫌い、だった?」

「嫌い…?あぁ…マジ嫌い。ケーキも、ケーキを作る人間も、俺は一番大嫌いなんだよ!」

祥の怒鳴り声には、どこか悲痛な苦しみも混ざっていて、余計ぎゅっと胸を締め付けた。

「…お前さ、俺らの父親を視たんじゃねぇの?だってそうだろ、なんでショートケーキなんだよ!」

「…うん。ボク、視たんだ…翔と祥のお父さん」

祥の指摘に、素直に話した。

実は、初めて会ったときから知っていた。翔と祥のお父さんが亡くなっていたことを。
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