crocus


3月の終業式間際、翔と祥に触れたときに、2人の奥で微笑むお父さんは、パティシエの格好をしてショートケーキを2つ手のひらの上に乗せていた。

誠吾に対して何かメッセージを送られたのは初めてだった。けれど、それが何を意図してるかは、すぐに分かった。ちょうど誕生日プレゼントを、何にするか考えあぐねている時だったから。

きっと、本当は翔と祥のお父さん自身が送りたいはずだ。だから、ボクはその想いを汲まなきゃいけないと思った。

そのために宿った力なのかもしれないと、初めて肯定出来た瞬間だった。

だけど、結果的に2人を傷つけてしまった。

また、だ。誰かのために何かをしようと頑張れば頑張るほど、ボクはヒーローじゃなくて、最低なヒールになる。

「…悪い。受け取れない」

翔は、いくらか声を抑えて言ったけれど、そこにも悲しい色が混ざっていた。

「あっ…」

手が滑り受け取り損ねた箱は、落下しコンクリートの上で、生クリームがぐちゃぐちゃに散乱した。


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