crocus
けど、さすがというか……やっぱりというか、いつの間にか体を起こしていた誠吾くんは純度100%の笑顔で問いかけた。
「どうしたの?かなめん」
「……どうしただと?お前また俺の部屋に勝手に入っただろう。本が散乱していた」
「あー!そうだそうだ。ゴメンねー?ほら、オーナーがペルーに行ったから、どんな国かなーって思って、かなめんの部屋の本を見たの。マチュピチュの写真を見たら、デザートのアイデア降臨しちゃったから、忘れない内に部屋に戻ったんだ」
「……片付ける時間もないほど、お前の思考はスクロールしていくのか。壁に挟まれてペチャンコか。まず勝手に入るなと……」
ものすごい早さで喋る桐谷さんの言葉の中に苛立ちが練り込まれていたのだけど、それをかき消すように携帯電話の無機質な着信音が鳴り響いた。
「はーい、もしもしー」
ピリピリとした場の雰囲気には、相応しくない明るい声で、誠吾くんは電話を取った。
桐谷さんから放たれている石化効果の視線をものともしない誠吾くんに一番ヒヤヒヤする。