crocus
「いっちごーいっちごー、とよのか、女峰!とちおとめ、あまおう、ももいちごーもあるよ!アスカルビー!」
そんなわけで時刻は5時半。誠吾くんリサイタルが車中で行われている。
朝食を作り終え、洗濯物は脱水まで済ませて、後は置き手紙で干しておいてほしいことをお願いしておいた。
そこまで終わると、寝癖がひどい誠吾くんが大あくびをしながらリビングへやってきたので、眠気覚ましのブラックコーヒーをポットに淹れてから出発した。
クロッカスの車が高速をひた走る中、正面に構える山の輪郭が徐々に白く染まりだしていた。少し霧がかっている部分は、夜と朝の境目をぼやかしていて、幻想的だ。
いちごの産地で有名な県境まで来ると、誠吾くんのテンションもピークを迎えた。
どこでも聞いたことのないメロディー。浮かんだ言葉をそのまま乗せていて、すごい才能だと思うと同時に、素直で可愛いなぁと癒される。5歳も年上の男性だけど。
「もうそろそろ着くよー!」
誠吾くんの言うとおり2回ほど角を曲がると、周りの景色は一変した。ビニールハウスと思われる建物が小さく見える。
広大な敷地の輪郭に沿って走れば、『ようこそ』と書かれた看板が見えた。