crocus
女性は何事もなかったように、にっこりと笑ってみせ、続けざまに質問を投げかけてきた。
「あー……何度も質問して悪いんだけど。あなた、お名前は?」
「雪村、雪村若葉と言います」
綺麗な女性は若葉が名前を言うとうんうんと上品に頷いた。
「そう、いい名前ね。これからどちらに?」
「えっと……これから不動産巡りをして住む部屋と、あと……働き口も探さなきゃいけなくて、忙しい1日になりそうです!」
切羽詰まった状況に自分でも呆れてしまう。だけど、それすら吹き飛ばすように明るく振る舞った。
「あら、そうなの?……ご実家には?」
女性はツヤツヤのネイルをしている右手を頬に当て、首を傾げて心配そうに若葉を見つめた。
ふわりとそよいだ風が女性の香水だろうか、優しい香りが若葉のところまで運んだ。
「実は昨日、高校卒業したんですが……、私情で家には帰れなくて。って、初対面のお姉さんにこんな話……すみません!あははは……」
「いいのよ?これも何かの縁だもの、気にしないで?」
女性の優しい言葉に、若葉の心は不思議と素直になる。
「えへへ。なんだかお姉さんとは初めて会った気がしなくて。それにすごくお花みたいないい香りがして、つい……」
女性は腕を伸ばし、よしよしと若葉の頭を撫でた。少し大きな手の平から温かな体温が伝わる。