crocus
またもや若葉はお世話になったカフェ店員達がいるであろうリビングに続く扉の前に立っていた。
いや、正確には低めの声帯を持つ美人女性の背中を目の前にしているのだが。
なぜこのような事態になっているのかと言えば、数刻前の若葉の一言が決め手になったようだ。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、若葉ちゃん。私が仕事を依頼してもいいかしら?」
なでなで、わしゃわしゃとだいぶ頭を撫でられ、若葉はボサボサになってしまった髪を手櫛で戻していたが、女性の急な提案に手を止めた。
「仕事内容は、私のお花の面倒をみてほしいの。ホントは私が責任をもって育てたいんだけど、どうも忙しくてねぇ……。給金はきちんと払うわよ?」
「え、お花の管理でお給料ですか?」
「ええ、そのくらい……どうしても枯らしたくないの」
女性の真っ直ぐ射抜くような瞳は、若葉の心に切に訴えるようにして揺らめいた。
しばらく悩んだ後に、ぽつりと話す若葉。
「……私、お花は好きです。少しでもお役に立てるのならって思います。でも私は知識だけで、実際の栽培に関しては素人です。責任も負いかねます。
"──だから実技練習のボランティアとしてなら!"