crocus
そうして何も解決出来ず、考えなくちゃいけないことは中途半端で宙ぶらりんのまま数日が経った。
今は仕事の忙しさが有難かった。
没頭してケーキを作っているときだけは、いろんなことを忘れられたから。
「…今日の夕方17時から閉店の19時まで貸切の予約が入っている。よろしく頼む」
開店前の伝達で、かなめんが言っていた時間まであと少し。
オーナーがいないと、かなめんはいつもの数倍スパルタになる。責任感から、そうなるんだなって思うと、かわいいなぁと、目が細くなる。
オーナーが帰ってきたら、かなめんの頑張りを伝えてあげよう。そう計画していると、かなめんと目が合った。
「誠吾!『シルフ谷の妖精パフェ』はまだか!?」
やっぱ伝えてやーらない…。
っていうか、そんな顔して可愛いメニュー名を平気で言うから、お客様がクスクス笑ってるの気づいてないのかな。
ほとんど完成していたパフェに、手早く生クリームを乗せて仕上げた。
「はーい、出来たよー。わか…」
つい、いつものクセで若葉ちゃんの名前を呼びそうになった。あんなひどい言葉を浴びせたのに、この唇は『若葉ちゃん』という動きを何度もしたがる。