crocus


つい1ヶ月前に出会ったというのに、もう何年も前からいたように感じる。それくらいクロッカスの日常の光景に、メイド服を着た笑顔の若葉ちゃんがいることが当たり前になっていた。

あの時にボクが宿泊を提案しなかったらどうなっていたんだろう。

出会ってすぐに抱きついた時に視えた守護霊が、若葉ちゃんにそっくりですぐにご両親だと分かった。ボクの両親に似た穏やかな雰囲気だったから、若葉ちゃんに優しくしたくなった。

部屋にあるコレクションの位置が変わることを嫌うのは、やっと手に入れた日常の平穏を乱されることを象徴しているようで、すごく不安になるからだ。

だからそれほど変化を嫌うボクが、若葉ちゃんをすんなり受け入れたことに、きっとみんなビックリしただろうな。

だけど、今は名前を気軽に呼べなくなってしまった。自分が蒔いた種だということも、このままじゃいけないことも分かってる。

「…運んでー。琢磨」

それでも、言葉を尽くせば尽くすほど核心から遠ざかって、空回りしそうだった。

まずはボク自身が心の中で散らばったままの問題を、本棚に仕舞っていかなきゃいけないんだ。

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