crocus
若葉ちゃんを盗み見ると、どこか落ち着かない様子で何度も時計を見ている。
針が教える夕方17時。
若葉ちゃんは初めての貸切パーティーだから、きっと緊張しているのかも、そう解釈してみる。
なんにせよフォローの声すらかけられない現状が、やるせない。
とにかく目の前の仕事に集中しようとすれば、入り口の扉が開くと共に涼やかな金色のドアベルがお客さんの来店を知らせた。
そうすると割と早く、若葉ちゃんがそわそわしていた理由が分かることになった。
「いらっしゃいませ!」
「いらっ……」
店員一同が声を揃えて出迎える中、誠吾は来店した人物達に驚くと、出かけていた言葉を飲み込んで一歩後ずさりした。
ぞくぞくと入店する面々は、ちえりさん、翔と祥のお母さん。他にも上原いちご農園で働いている親族の方々。
そして最後尾に……翔と祥の姿。2人とも凛と背筋を伸ばし、前を見据えている。
「いらっしゃいませ!今日は門倉様の誕生会ということでの貸切パーティーです。お時間までごゆっくり楽しんでください」
そう言いながら琢磨が席を案内し始めた。ハッとして恭平や恵介、かなめんと順に表情を確認すれば、みんな不自然なくらい平静を装っている。
とぼけている、と言ってもいいかもしれない。代表者の名前だけじゃなく、貸切客が翔と祥であることをみんな前以て知ってたに違いない。
それを伝えたのは……。
若葉ちゃんの方を見れば、バチッと目が合った。若葉ちゃんはずっとこちらを見ていたようで驚いてビクッと肩を跳ねさせた。