crocus
「いらっしゃい、ませ。ようこそ、クロッカスへ。誕生日、おめで、とう……ございま……す」
ただでさえ同級生に働いている姿を見られるのは恥ずかしいのに、ケンカ別れをした友達を目の前にすれば声量のコントロールが難しくなるのも仕方ない。
「どうも、な」
「……いい店だな」
祥と翔がぎこちないながらも返事をしてくれたけど、その後の言葉がどうも浮かばない。
流れる沈黙に助太刀してくれたのは、ちえりさんだ。
「ほぉーら!あんた達、誠吾に言うことあるんでしょ。あっちの隅で話しておいで」
翔と祥の背中をポンッと押して、シッシッと手のひらを仰ぐ。そして首をクルッと回すと、ちえりさんの1つに結んだ黒髪がふわっとなびいた。
「若葉ちゃん!……もしよかったら若葉ちゃんが間に入ってもらえるかな?」
「え?私が……ですか?」
「そう!私たちは、このイケメン店員に尽くしてもらうからさぁー」
戸惑う若葉ちゃんの前でノリノリなちえりさんが、琢磨とかなめんの肩に両腕を回した。
カウンターにいる恭平と目が合うと、顎をクイクイっと動かして、早く行けと促された。
誠吾がコクッとしっかり頷くと、口角を緩く上げた恭平が親指を突き出してサインを出した。