crocus
翔と祥に角の席を案内して、向き合う形で座ると、誠吾の隣に若葉ちゃんも腰掛ける。
まず始めに、緊張で既に口の中がカラッカラになっていた誠吾から口を開いた。
「ち、ちえりさんと親戚だったなんて驚いたよ……」
「あ、あぁ……俺らの父さんの弟さんの嫁さんなんだ。俺らこそ……まさか誠吾がうちのいちご受注してるなんて知らなかったよ」
「いろんな農園のいちごを食べ比べたけど、ボクの目指すケーキに上原さんのいちごの味がピッタリだったんだ」
「へぇ~そっか。……すごい偶然だな」
他愛も無い会話で、ふっと空気が和み、そのタイミングで恭平がコーヒーを持ってきてくれた。4人揃ってズズズと啜っていると、いち早くカップを置いた祥が話を切り出した。
「誠吾に会いに来た理由を話す前に……俺らの父さんの話をしていいか?」
「……うん、聞かせて?」
軽く咳払いをした祥は、いくらか緊張しているようだ。
「俺らの父さんってパティシエで、自分のケーキ屋を持つ経営者でもあったんだ」
祥は視線をカップに固定したまま、両手で持って揺らしている。次に言葉を繋いだのは、翔だ。
「俺たちは、そんな父さんが嫌いだった。ケーキばっかり作ってて、一緒に遊んだこともなかったし、家にいる時間は寝るためと風呂に入るために帰ってきてるような、典型的な仕事バカだったんだ」