crocus
「そして……俺らが小学生の頃、仕事の忙しさが祟って、父さんは病に倒れた。そのまま帰らぬ人になっても、いつもと生活は変わらなかった。家にいないも同然の人だったから」
誠吾はゴクリと唾を飲み込んだ。
思えば、翔と祥と一緒にいた時間なんてたった1年。誠吾が見てきた2人は人望や発言力があって、まばゆいオーラが滲み出ていた。男女関係なく憧れや尊敬の眼差しで見つめている人達がたくさんいた。
だけど本当は悲しい、切ない、苦しい、憎い。そんな感情を持ち合わせている、ただの同級生だ。
『容姿と才能に恵まれた特別な双子』
そのイメージの殻を壊せば、誠吾の目の前にいるのは過去を話すことに躊躇いを感じている23歳の『門倉翔』と『門倉祥』だった。
単純に力になりたいと思った。
誠吾は何一つ聞き逃すことがないよう、2人の紡ぐ言葉を目で、耳で、温度で感じながら拾っていく。
「家庭を省みずに、母さんを残して逝ったことだけが許せなかった。恨みは根っこまで腐らせて、父さんがパティシエだったことや、機嫌取りのために作ってたショートケーキも……大嫌いになっていった」
祥がそう言うと、すまなそうに誠吾の目を見た。思い出しているのは、お互い同じシーンだろう。