crocus
誠吾は首を振って軽く笑ってみせた。祥はゆらゆら瞳を下に落として、唇を口内にグッと隠した。そんな祥を横目に、翔が口を開く。
「俺らは、お互いにそんな感情を常に共有して膨らませてきた。父さんが愛したのは、母さんでも、俺らでもなくて、小さなケーキ屋だけの寂しい人生を生きた人だって」
「そんな父さんが亡くなった後も、母さんはケーキ屋を守ってた。でも、閉店に追い込まれたのが、今年の1月。その時に、店を売り払う準備のため、店を整理していたら一冊のノートが見つかったんだ」
翔が、カバンから一冊の大学ノートを取り出して、テーブルの真ん中に置いた。
「それ…読んでいいよ。そこには、父さんの本当の思いと、夢が書いてあるんだ。夢の正体は、そこにいる若葉ちゃんが答えに導いてくれたんだ」
祥がこれ以上ない穏やかな目で、若葉ちゃんを見た。隣にいる本人は、自分を指差して驚いてる。
まずは、真相を知るために、そっと大学ノートに手を伸ばした。若葉ちゃんにも見やすいように持ちながら、大切にページを開いた。